戦略コンサルBCGで鍛えられた「なんとかして成果を出す」オーナーシップ

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はじめに

本インタビューでは、世界的な戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループ(BCG)でキャリアをスタートさせ、現在はベンチャーキャピタルで活躍する山口拓哉氏に、コンサルティング業界での成長や、ベンチャーキャピタルへの転身について語っていただきました。山口氏は、新卒でBCGに入社し、戦略コンサルタントとして国内外のプロジェクトに携わり、特に海外オフィスでのデューデリジェンス案件や商社のターンアラウンド案件などで経験を積みました。現在は独立系ベンチャーキャピタルに転身し、シードからアーリーフェーズを中心としたスタートアップへの投資業務を担当しています。

若手社会人や学生にとって関心の高い「コンサルティング業界における成長とは何か」「本当に成長できるのか」という問いに対する率直な回答や、グローバルな環境での挑戦、そして自分の強みを活かしたキャリア構築についての貴重な洞察をいただきました。

戦略コンサルでの成長 ー オーナーシップと実践力の獲得

ーー 外資系戦略コンサルティングファームで働いて実感された、ご自身の「成長」についてお聞かせいただけますか

結論から言うと、個人的にはかなり成長させてもらったと思っています。巷で言われているようなハードスキル、例えば思考力や資料作成、リサーチなどのスキルは当然かなり鍛えられました。一方で私がBCGに入社して最も良かったと思う点は、「なんとかして結果を出す」というオーナーシップが身についたことです。新卒入社後すぐは明確なビジネスの専門性があるわけではないからこそ、自分の頭で考え、時には周囲の助けも借りつつ結果を出すことにこだわるマインドセットが重要だと気づきました。

ーー 具体的にはどのような場面でそれを感じられましたか

例えば新しいプロジェクトに入ったとき、特に若手だと業界や取り組むテーマについて詳しくないことが多いです。しかし、たとえ知識がなかったとしても理解を諦めるのではなく、自分で仮説設計を行って考えたり、それでもわからないことがあったとしても「こうやってリサーチすればわかりそうだな」とか「こんな経歴の専門家に質問すればわかりそうだな」など、「結果を出すためにはどうすればいいのか?」という前向きなマインドで取り組めるようになりました。 今のベンチャーキャピタルの仕事でも、馴染みのない業界や新しいビジネスモデルなど日々知らないことに直面しますが、コンサルの経験があるおかげで「できないことは当たり前」と受け止め、自分がやるべきことをしっかりやっていけば糸口が見つかるという自信があります。

ーー 実際に入社されて、しんどい思いをされたり、厳しい経験だなと感じられたりしたことはありましたか

入社前は戦略コンサルの仕事は厳しい上司に詰められながら日付が変わるまで働くようなものだと思っていたのですが、いざ入社してみると想像に反して上司は優しく褒めてくれるし、働き方もリーズナブルで「意外と楽だな」と感じていました。しかし今振り返ると、この時期の自分は良くて70点の成果物を作っていただけで、常に上司に助けていただいていたなと思います。今になって分かりますが、ある程度の質の成果物からクライアントに驚いてもらえるレベルにまでクオリティを高めるところが難しいもので、このレベルまで仕上げてこそ戦略コンサルの価値があると言われるのだと思います。入社して半年程度経つと徐々にそのようなレベルの仕事が求められるようになりました。当然厳しいフィードバックをいただいたり、長く働いたりすることも増えましたが、ようやくケースチームの一員とみなされたのだと嬉しかったことを覚えています。この時期は同期と集まっては、コンプラに厳しいこのご時世でもいかに上司に厳しいフィードバックをしてもらうかという話をしていた気がします。体力的に最も辛かったプロジェクトは、海外オフィスでのデューデリジェンス (DD) 案件です。英語があまり得意ではなかったのですが、DDに興味があるとレジュメに書いたところ、パートナー (編集注: コンサルティングファームで上位の役職の人) から声がかかりました。海外オフィスのメンバーと一緒に働くプロジェクトで、朝まで働く日もありました。また、英語を使いながら分析をこなすことも非常にハードでした。

ーー その海外プロジェクトから得られた学びについて、詳しくお聞かせいただけますか

いくつかありますが、一つは当然のことながら英語はできた方が良いということです。特にBCGのようなグローバルな会社では英語ができることで経験できることの幅が大きく広がります。自動翻訳が進歩しても、自分で外国語を話して関係値を作れたり、英語でもキレのいい文章を書けることの価値はあるのではと思います。また、コンサルのロジカルな思考方法はある種の共通言語のように感じました。 英語ができるわけではなかった自分がなんとかプロジェクトに貢献できたのは、「BCGの人は普通こう考える」「こんな構造のチャートを作れば自分の考えていることが伝わる」という共通言語があったからです。もちろん日本語であれば、少し話せば済む内容を伝えるために詳細な資料を準備するなどの苦労はありましたが、ハイレベルな働き方が全員にインストールされている点はグローバルファームの素晴らしい部分です。

もう一つは、海外の同僚と働き「ハングリー精神」を強く感じたことです。同年代の若いメンバーと働いていましたが、彼らは「今週のパフォーマンスはどうだった?」「このパフォーマンスで次アーリープロモーションできると思う?」といった話を毎週のようにしてきました。オフィスもいつでも泊まれるような環境で、彼らはとにかく働き、昇進して稼ぎたいという意識が強かったです。私自身も学生時代から常に貪欲に成長を求めてきた自覚はありましたが、全く不足していると感じました。それ以降よりシビアに自分の成長に向き合うようになった気がします。

ーー 他に印象に残っているプロジェクトはありますか

商社のターンアラウンド案件が印象に残っています。とある商社の子会社のターンアラウンド業務でしたが、子会社といってもかなり大きな売上規模を持つ会社でした。2年目の後半にこの案件を担当しました。 戦略コンサルに入社したのは中期経営計画・M&A戦略・新規事業戦略などのわかりやすい「戦略案件」をやりたいと思ってのことで、現場の方と密に関わる案件よりも「綺麗な戦略を描いてクライアントの社長と話す」方がかっこいいと思っていました。しかし、この案件では社長などの経営陣と対峙するだけでなく、クライアントのさまざまな部門の方と話したり、細かいオペレーショナルな部分にも触れたりと、現場の人達と強固な信頼関係を築く必要がありました。 常駐案件だったので毎日クライアント企業に出社し、社員の方々と密接にコミュニケーションをとることが物事を進める上で重要で、頻繁にお客さんと飲みに行く機会もありました。当初は純粋な戦略策定に憧れがありましたが、クライアントの中に入り込む案件は協働する人との距離が近くなりやすく、そのことでやりがいを感じることも多かったです。 上流の戦略を描くことが知的に楽しい一方で、多様な人とより密に関わりながら価値を出していく働き方も面白いと感じ、ファンドに転職することを考えるきっかけの一つになりました。

ーー コンサルティング業界が、他の業界と比べて成長実感が高いと言われる理由について、どのようにお考えですか

二つの理由があると思います。 一つ目は求められる要求水準が高いことです。私も入社して半年後には大手食品会社の社長に自分のアウトプットをプレゼンテーションしました。学生時代の自分からすれば雲の上の存在のような人たちが、自分の考えたことを、「BCGのアウトプット」として真剣に聞いてくださり、もしかすると企業の経営の方向が決まるかもしれないのです。 もちろん、それに見合う内容にするためには相当の分析と思考が必要で、高い水準を求められます。プレゼンテーションに関しても、生徒会長・野球部の主将・学生団体の代表など人前で話す経験が多かった自分は自信がありましたが、難易度の高い内容を正確に理解していただき、時には適切にファシリテーションしながら議論をまとめることは難しいものです。初めてのプレゼンテーションの前日には、自分が話すことを一言一句スクリプトにして、上司に練習に付き合っていただきました。 

二つ目は、上司が成長にコミットしてくれることです。コンサルファームでは人を育てることもマネージャーの重要な仕事です。BCGでは毎週30分程度時間を取って上司にフィードバックをもらうことが一般的です。その週の仕事のパフォーマンスに関してはもちろん、次のステップに進むためにどこを改善すべきか、どう伸ばしていくかを真剣に議論してくださいました。朝から晩まで毎日のカレンダーがびっしり埋まるようなパートナークラスの方でも、自分の成長のために時間を取ってほしいとお願いをして断られることはありません。BCGのパートナーという、クライアントがかなりの金額を支払って仕事を依頼し、ビジネスマンのバイブルになるような本を書いている人たちが、自分のために時間をつくり指導してくれるのです。高い目標が設定され、それを達成するための周囲のサポートがあることが成長につながっていると思います。

ベンチャーキャピタルへの転身 ー 新たな挑戦の場で

ーー 現在はどのようなお仕事をされていますか

現在は独立系のベンチャーキャピタルで投資業務を行っています。シードからアーリーフェーズが主な投資対象で、設立してから日が浅いスタートアップ、売上でいうとほぼ0の会社から数千万円程度の会社に投資を行うことが多いです。 私の業務は多岐にわたります。新規の投資先候補を見つけてきて、その会社が本当に投資対象としてよいかを分析して投資を実行し、その後経営支援も行うという投資のフロント業務がメインです。また当社は少数精鋭の会社なので、投資業務以外にも色々な仕事をしています。例えば私が担当するマーケティング業務では、ホームページに掲載する記事の執筆やSEO対策、SNSの運用なども行っています。最近では、400人近くが参加する自社の10周年記念イベントの設計も担当しました。自社のこれまでの歩みや魅力を伝え、また多様な業界関係者に楽しんでいただきつつネットワーキングもできるようなイベントは大手広告会社なども巻き込んだ大規模な企画でした。このように少人数の会社だからこそ投資をメインとしつつも幅広い仕事に携わっています。

ーー 未経験の領域も多いと思いますが、どのような心構えで取り組まれていますか

基本的に未経験であったとしても必ず成果を出す意識で取り組んでいます。この点に関して、コンサルで培った「何とかなるだろう」というマインドは役立っています。またあらゆることで結果を出すための構造は同じだと思っていて、可能な限り深く精緻に考え、精一杯実行するというシンプルなものだと思います。そのような心構えでいれば、まずは自分の頭で徹底的に考えますし、どうしてもわからないことやできないことにぶち当たった際には新しく学習したり、周囲の方を巻き込んだりが自然とできるのではないかと思います。そして頭でっかちにならず、できることはなんでもやる、できるまでやるというスタンスが最終的な結果を左右すると信じています。

ーー AI時代において、コンサルティング企業はまだ良いトレーニングの場だとお考えですか

確かに多くのアソシエイト業務はAIに置き換わりつつありますが、コンサル企業では今後も引き続き優秀なマネージャーやパートナーが必要だと思います。その中で引き続きアソシエイトから徹底的に鍛えていく風土は維持され、結果的に良いトレーニングの場であり続けるのではないでしょうか。BCGではアソシエイトの頃から「自分の頭で徹底的に考えろ」と教わり続けてきました。AIが高度なリサーチ業務を代替し、より的確な論点を出してくれるようになっても、それらの材料を活用して意味のある示唆を出すことの価値はあり続けるのだと思います。AIを使えばもっとパフォーマンスを発揮できるはずという形で若手に求められるレベルは上がっていくとは思いますが、今後もコンサル業界は良いトレーニングの場であり続けると思っています。

自分らしいキャリアの築き方 ー 得意なことと社会の接点

ーー 若い世代が今後どのようなことを学び、努力していくべきだとお考えですか

自分の得意なこと、あまり頑張らなくてもできること、楽しんでできることを見つけてやり抜くことが重要だと思います。 ベンチャーキャピタルの仕事は、難易度の高い仕事ではありますが、常に楽しく前向きに業務ができています。それは、ベンチャーキャピタリストの仕事は「自分に向いているな」と思う瞬間が多いからだと思います。この仕事では、新しい人や情報に触れ続けること、様々なビジネスモデルをクイックに深く掘り下げることなどが求められますが、私にとってはいずれも楽しく、仕事で求められる努力があまり苦に感じません。 コンサル企業でも上位の役職に昇進している人は、難しい課題を解くために突き詰めて考えることが本当に好きで、周りから催促されてではなく楽しんで時間を使っている人が多かった印象です。もちろん例えば英語など意識的に努力が必要なこともありますが、コンサルという仕事の根幹を楽しんで取り組んでいる方の方が多いのではと感じていました。学生時代は「頑張って人一倍の努力をすることが成果を出すための唯一の方法」だと思っていましたが、ある時に実はそうではないのでは?という疑問が生じました。今では、自分の心からやりたいことや楽しんでできることが社会の求める価値と一致したとき、苦労せずとも他者から評価をしていただけると感じています。

昔から「好きなことや得意なことを見つけた方がいい」と言われてきましたが、最近になってそれが本当だと腑に落ちました。自分の得意なことと社会が求めているものの接点を見つけることが大切で、それを見つけられると自然とやるべきことが決まってきます。

ーー 自分の得意なことや好きなことを見つけるには、どうすればよいでしょうか

学生時代は大学受験の延長でわかりやすく社会から評価されることを頑張っていました。その結果、人より少しできるレベルのことは増えましたが、自分がやっとのことでできるようになったことを、さらっとこなしてしまう人がいることにも気づきました。 一方で、自分が特に頑張っていると感じないことで人から評価されることもあります。自分にとっては当たり前だと思っていることでも、実は得意だから簡単にできているだけで、意外と周りからは評価されることがあるのです。 そのような経験から、自分が楽しんでできることで社会に評価されるものを見つけ、そちらを突き詰めた方が良いと思うようになりました。アンテナを張りつついろいろなことに挑戦してみると、自ずとそのようなことが見つかるのではないかと思います。

ーー 自分自身が進化し続けるためには何が必要だとお考えですか

自分がこれまでやってきて良かったと思うのは、様々な人と会うことと新しいことを学ぶことです。様々な人と会うことの良さは、「自分の相対的な位置がわかる」ことです。「この人と比べて自分はこういうところが得意で、こういうところは足りていないんだな」という相対的な自己評価ができるようになります。 例えば自分と同じ世代の中で自分がどの位置にいて、何が得意で何が苦手かがわかってくると、次に何を学ぶべきかが見えてきますし、ロールモデルとなる人も見つかるかもしれません。 また、新しい視点や情報を積極的に取り入れることも大切です。自分のポジショニングを考えるには、社会や市場の動向、人々の考え方を知る必要があります。社会がどう動いているか、何が流行っているかといった最新情報を常に取り入れていく心がけも大事だと思います。


※内容や肩書は2025年12月の記事公開当時のものです。

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