会計士から弁護士へ ー 二つの専門性を築いた青木太郎氏が語る学びの継続と環境の力

学び続ける

はじめに

資格取得を通じて専門性を構築し、キャリアを切り拓いていくーその道のりは決して平坦ではありません。就職氷河期という厳しい時代背景の中で会計士を目指し、監査法人での実務を経て、さらに仕事を続けながら夜間ロースクールに通い司法試験にも合格した青木太郎氏。会計と法律という二つの専門領域を持つ稀有なキャリアを築いてきた青木氏は、効率的な学習管理の重要性と、学びを支える環境の力を強調します。

本インタビューでは、青木氏に資格取得の経緯から現在の専門領域、効率的な学習法、そして若い世代へのメッセージまで、幅広くお話を伺いました。「勉強そのもの」と「勉強の管理」を両立させ、バランスを保ちながら着実に専門性を深めてきた青木氏の言葉には、これから学びを継続していく全ての人に通じる実践的な知恵が詰まっています。

就職氷河期と資格という選択 ー 会計士への道

ーー まず青木さんのご経歴について、会計士を目指されたきっかけからお聞かせいただけますか

最初から強い動機・目的意識があったわけではありませんでした。就職氷河期という時代背景の中で、周りの優秀な人たちも就職に苦労している状況で、「資格逃げ」したというのが始まりです。自分単体で勝負するよりも資格で勝負する道を選んだという、どちらかというと消極的な選択だったかもしれません。

ーー 会計士試験の勉強はいつ頃から始められたのでしょうか

大学生の頃から始めました。

ーー 会計士資格を取得された後、最初のキャリアはどのようなものだったのですか

最初は監査法人に行き、国内の監査業務を担当していました。規模は大小様々でした。

ーー 会計士試験の勉強期間について、順調に進んだのでしょうか。それとも苦労された点もあったのでしょうか

会計士受験生としては中間層的な位置にいたと思います。一応2年くらいで試験自体は受かりました。勉強は「それなりに」はしたと思います。ただ、周りには自分よりもっと長く勉強している人もいました。そのような状況で2年で合格できたのは運が良かったと考えています。

ーー 会計士試験の勉強を振り返って、特に良かったと思われる点や、今だからこそ感じる工夫のしどころなどはありますか

環境は良かったと思います。当時、会計士の予備校に通っていて、そこで高いモチベーションを持つ仲間や友人ができました。勉強に対するモチベーションが保ちやすい環境に運良く入れたことで、しんどい時期もありながらも続けることができたと思います。

二つ目の専門性へ ー 夜間ロースクールという挑戦

ーー 監査法人での実務経験を積まれた後、法律の道へと進まれたとお聞きしています。そのきっかけや転身の背景について教えていただけますか

大手の監査法人にいると、周りには優秀な人が多くいます。そうした環境の中で同じ土俵で戦い続けていくのは難しいと感じていました。ちょうどロースクール制度ができた少し後の頃で、夜間のロースクールがあることを知り、「やってみようか」と考えました。夜間のロースクールを調べる中で、それまでのキャリアと法律をかけあわせることに、可能性と面白さを感じ、通い始めました。そして一度通い始めると、続けてしまうものですね。何とか司法試験にも合格して、今に至ります。

ーー 司法試験の勉強でも、会計士試験の時のように一緒に学ぶ仲間の存在は大きかったのでしょうか

環境は大事だと思います。有志の勉強ゼミに入りました。司法試験は1回目は落ちたのですが、その時までは1人で勉強していました。2回目の時にゼミに入って、「周りの仲間が勉強をしている環境」に身を置くことで、自分も勉強に前向きに取り組むことができ、結果として引き上げられた部分があると思います。やはり環境が大事だと感じています。

ーー 夜間のロースクールには、どのようなバックグラウンドの方々が集まっていたのでしょうか

官僚の人、医師や士業の方、企業勤めの人など、幅広いバックグラウンドの人がいました。

ーー 仕事をしながら夜間のロースクールに通い、司法試験の勉強をするというのは非常にハードだったのではないかと思いますが、どのように両立されていたのですか

周りの夜間ロースクールの学生の中には、授業が終わった後も夜中まで勉強する人もいましたが、私はそこまでは根詰めていませんでした。ロースクールがある平日は授業を受けるだけで週末にまとめて勉強したり、ペース配分は自分の体力も勘案しながらなんとか両立したというイメージです。無理をしないようにはしていたと思います。

ーー ご自身の学習スタイルについて、勉強漬けの日々だったのか、それともバランスを意識されていたのでしょうか

勉強漬けというタイプではなかったです。特に社会人になってからの勉強については、疲れたときはやらないというスタンスでした。学生の頃も、社会人としての勉強よりは、高い強度で勉強していましたが、疲れたらやらないというような感じで、すごく詰めるタイプではなかったと思います。

二つの資格が生む専門領域 ー 深化するキャリア

ーー 会計士と弁護士という二つの専門資格をお持ちであることが、実際の業務やキャリアにおいて強みになっていると感じられることはありますか

自身の強みとなっている部分があると思います。両方の知識を使うような場面もありますので、そのような場面では二つの専門資格があることは活きます。

ーー これから先のキャリアについて、どのような展望をお持ちでしょうか

会計と法律の二つの柱ができたので、この二つを使う領域や分野をより深めていきたいと考えています。「ここは自分の得意ジャンルです」というところをしっかりと深掘りしていきたいというのが、私のキャリア像です。 ‎

ーー 資格を取得された後も、日々学び続けていらっしゃるのでしょうか

法律や会計の分野について、常に何かしら広い意味での勉強はしています。

効率的な学習の本質 ー 勉強の管理という視点

ーー 効率的に学習を進めるために、どのような工夫や意識が重要だとお考えでしょうか

私も効率的に勉強して最短で合格したわけではありませんが、いくつかポイントはあると思います。まず、むやみに手を広げないこと。手を広げすぎるとその分やることが拡散して力がつかないことがあります。また、勉強そのものも大事ですが、勉強を管理することも重要です。自分が今何をどれくらい勉強していて、今後何をどれくらい勉強しなければならないかをしっかり把握する。試験を一つのプロジェクトとして捉え、進捗管理するような視点が効率的な勉強には必要だと思います。

学びの意味とバランス ― 次世代へのメッセージ

ーー 青木さんご自身にとって、「学ぶ」ことや「勉強する」ことは楽しいと感じられるものなのでしょうか

楽しいと感じる部分はあります。特に会計士や弁護士の勉強は仕事に直結するものなので、中学生や高校生の時の「これは何に使うのだろう」という勉強とは異なり、「目の前にある課題に対応する」という目的意識があります。そこで初めて「勉強が楽しい」と思う気持ちが芽生えたように思います。

ーー 今の若い世代の中には「このまま勉強を続けても未来はあるのか」と疑問や不安を持つ人も少なくありません。そういった若い方々に対して、何かメッセージをいただけますか

勉強は今後の時代もするものだろうと思います。ただ、方向性やジャンルは変わるかもしれません。AIが発展して知識的な意味で学ぶ必要性は下がるかもしれませんが、全部が全部、不必要になるわけではないと思います。また、自分の興味がある分野などは勉強をしていても「楽しい」と感じることができると思います。役に立つかどうかはさておいて「楽しんで」みるのも良いと思います。

ーー 若い世代が自分なりの方向性を築いていくために、どのようなアプローチが有効だとお考えでしょうか

将来を迷っている人にとっては、「いろいろな人に会う」ことが大事だと思います。様々な人に会うと、いつか必ず魅力的な人に出会うと思います。そのようなときに「こういう方向に行こうかな」というのが見えてくることがあると思います。

ーー 現代の働き方や学び方について、課題に感じていることや、もっとこうあるべきだとお考えの点はありますか

タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉がはやっており、現代社会における早い状況変化の中で、いかに短期的に結果を求めるということは一面では理解できます。ただ一方で、「短期的に結果を求めること」に注力し過ぎるのも違和感があります。「短期的に結果を求める」だけではない働き方や学び方、例えば自分が「楽しい」と感じることを純粋に掘り下げるということも大事だと思います。


※内容や肩書は2025年11月の記事公開当時のものです。

タイトルとURLをコピーしました