学生スポーツの歴史を通じて、若い世代を中心に多くの人々へ「命の尊さ」を伝える活動をリードされている中野雄三郎氏。本稿では、中野氏が注力される「『最後の早慶戦』保存会」の活動に懸ける思いを綴っていただきます。
はじめに
昭和18年10月16日、戦争が激化する中で行われた最後の早慶戦(学徒出陣壮行早慶戦)。試合後、勝利した一塁側・早大応援団から「ガンバレ、ガンバレ慶應」の声がわき上がった。すると三塁側の慶大は全員帽子を振って「ありがとう。ありがとう。」と応える。今度は慶大側から「ガンバレ、ガンバレ早稲田」の声。そして早慶の学生達が一緒になって『若き血』『都の西北』を涙を流しながら高らかに歌った。やがてどこからともなく沸きおこった『海ゆかば』のメロディー。スタンドの学生から学生へと広がり、スタンド全員の大合唱となって、早稲田の社にこだました。そこに早稲田も慶應もない。選手は「今度は戦場で会おう」と互いを励ましあっていた。「これで思い残すことはない」と戦場へ飛び立ち、そのまま二度と還らぬ人もいた。まさに「最後の早慶戦」となった。
そのグラウンドに立っていた一人が、私の祖父・松尾俊治(享年91歳)。祖父は1980年に早稲田大学野球部の笠原和夫氏と共に、この感動の記録をまとめた書籍『学徒出陣最後の早慶戦』を出版。2008年には映画公開のタイミングで再版されましたが、現在は絶版となり、読むことができません。2025年は「戦後80年」「昭和100年」「六大学野球連盟100周年」という大きな節目の年。私たち家族は、この歴史的な物語を後世に残すために、クラウドファンディングを通じて復刊することを決意しました。野球の力、スポーツの力、本の力を信じて挑戦して参ります。
このプロジェクトを始めた理由
私はこの本を読むまでは、戦争はどこか遠くの国の話、映画や小説の中の話だと思っていました。しかし、この本を通じて、当時の学生たちが早慶戦を最後に戦地へ向かった事実を知り、戦争を「自分ごと」として捉えるようになりました。祖父は空軍に志願し、戦争があと少し長引けば特攻隊に行くところでした。今を生きる人はみな、運良く生き延びた人の末裔で、少し違えばこの世に生を受けることはなかったのだと思います。
今の平和な日本があるのは、先人たちの犠牲や努力の上に成り立っている。早慶戦や様々なスポーツ、仕事や趣味に打ち込めることは当たり前ではない、それが叶わなかった人たちがいることを忘れてはいけない。足るを知り、日常への感謝が生まれました。また、戦時中においても、両校のイズム、そして飛田先生(早稲田大学野球部顧問)、小泉塾長(慶應義塾大学塾長)のリーダーシップ、学生たちのスポーツマンシップが貫かれていた。その事実に触れ、塾員として、また一人の日本人として大きな誇りを覚えました。最後の早慶戦は、後世に語り継ぐべき物語だと信じています。
本プロジェクトの意義
このプロジェクトにご支援いただくことは、単に書籍の復刊を支援するだけでなく、
平和への祈りを形にする活動に参加していただくことを意味します。支援者の皆様は、戦後80年の節目に【記録を遺す活動】の一員となり、世代を超えた繋がりと感動を体験していただけるでしょう。復刊された書籍は、ご家庭での平和教育の教材として、また学校や図書館での推薦図書としてご活用いただけます。
戦争を知る人が少なくなる今だからこそ、我々が責任をもって語り継がなければなりません。この本は単なる野球の記録ではありません。戦争により青春を突然断ち切られた学生たちの「生きた証」でもあります。最後の早慶戦にかけた学生たちの姿は、現代を生きる私たちに多くのことを教えてくれます。特に若い世代の方々には、同世代だった当時の学生たちがどのような想いで戦場に向かったのか、その心境を追体験していただきたいのです。彼らの想いをお子さまやお孫さまに伝えることで、私たちが今享受している平和な日常がいかに貴重なものかを実感していただけるはずです。何気ない日常が、今まで以上に素晴らしいものになるでしょう。
実現したいこと
・絶版となった書籍『最後の早慶戦』の復刊
・専用ホームページの立ち上げと運営
・電子書籍化による恒久的な保存と普及
・漫画化、オーディオブックの作成
・戦後90年、100年における本書籍の復刊
おわりに
祖父のあとがきにはこうあります。「最後の早慶戦、本当にあの時はそう思った。選手も応援の学生も戦場へ行けば間違いなく死ぬのだという一種の感情の燃焼があった。球場全体が悲壮感に溢れていた。試合後、涙を流しながら一つの塊となって応援歌を歌い続けた。」この本を還らざる球友に捧げ、出来る限り語り続けたいという祖父の意思を、我々家族が受け継ぎます。
戦争は過去の話ではなく、今もなお多くの命が失われています。また、様々な問題を抱える日本においても、対岸の火事ではありません。多くの皆さまの思いも込めて『最後の早慶戦』を後世に残したいと思います。皆様のあたたかいご支援を心よりお待ちしております。
ホームページおよびプレスリリース
■ホームページ
https://saigo-soukeisen.com
■プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000171217.html
■動画2分バージョン
https://youtu.be/D4LjqYK5hNI



※内容や肩書は2025年9月の記事公開当時のものです。