【後編】「新しいことを学び続ける」という成長の原動力 ー 製薬企業で活躍する梨本遥馬氏インタビュー

学び続ける

はじめに

前編では、製薬企業で活躍する梨本遥馬氏の学びの原点となった中高時代から東京大学での学生生活までをお届けしました。コツコツと積み重ねる学習スタイルと、新しい知識を吸収することへの純粋な喜びが、梨本氏の成長を支えてきたことが伺えました。 

後編では、梨本氏が東京大学大学院修士課程を修了後、製薬企業でどのようにキャリアを築いてきたのか、そして現在取り組まれている臨床試験の統計解析業務について詳しくお話を伺います。学生時代に培った「新しいことを学び続ける」という姿勢が、専門性の高い医薬品開発の現場でどのように活かされているのか、そしてプロフェッショナルとして成長し続けるための秘訣について、貴重な示唆に富んだ内容をお届けします。

製薬業界でのキャリア ー 臨床試験と統計解析の世界

ーー 現在のお仕事について、具体的にどのような業務をされているのか教えていただけますか

製薬企業で医薬品の開発、特に臨床試験の統計解析を担当しています。医薬品の開発というと、白衣を着てフラスコを持ち、実験を行う姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。実はそれは医薬品の研究の段階の仕事です。開発は、研究で得られた成果をもとに、人に薬を投与して安全性や有効性を確認する段階です。臨床試験では、患者さんに薬を投与して効果や副作用を評価し、その結果をもとに薬の承認を目指します。

私は、この開発の段階で、臨床試験の計画や結果の解釈を統計解析の観点から行っています。

ーー なぜその職種を選ばれたのか、きっかけや理由をお聞かせください

大学の研究室では薬物動態(薬が体内でどのように吸収・分布・代謝・排泄されるか)を研究していました。研究を通じて、薬の仕組みを深く理解する面白さを感じる一方で、「最終的に人に投与されたとき、実際にどのような効果をもたらすのか」という部分にも強い関心を持つようになりました。研究で得られた知見が実際の医療現場でどう生かされるのかを確かめたいという思いから、開発の仕事に惹かれました。

開発分野には、臨床試験の立ち上げや医療機関との連携など様々な仕事がある中で、統計解析という分野があることを知り、就職活動中の面接や担当者との会話を通じて興味を持ちました。

ーー  統計解析という専門分野に興味を持たれた具体的なきっかけについて、もう少し詳しくお聞かせください

元々研究室の先輩から統計解析の話を聞く機会があり、ある程度馴染みがありました。また、医薬品開発の仕事について調べる中で、医薬品開発において、臨床試験の結果を科学的に評価するために統計の考え方が欠かせないということを知り、興味を持ちました。

ーー 臨床試験における統計解析の役割について、具体的にどのような形で関わっているのか教えていただけますか

統計解析は単に数字を扱う仕事ではなく、臨床試験の根幹を支え、薬が本当に効果的かを科学的に証明するための重要な役割を担っています。例えば、「薬を飲んでから発熱が下がるまでにかかる時間」や「副作用が出た人の割合」を比較し、薬を飲んだ人のほうが本当に早く熱が下がったのか、あるいは副作用が少なかったのかをデータから確かめるのが統計解析の役割です。単なる偶然の差ではなく、「薬の効果によって起こった違いなのかどうか」を科学的に判断します。

継続的な成長と学び ー プロフェッショナルとしての強み

ーー 専門性の高い統計解析の知識やスキルを、どのように身につけていらっしゃるのでしょうか

大学・大学院では薬物動態の研究をしていたため、入社してから本格的に統計解析や臨床試験の知識を学び始めました。

上司のすすめで臨床試験に関するeラーニングサイトを活用したり、部署の先輩から最新の事例や実務上の工夫を聞いたりしています。また、興味を持ったテーマは自分で本を探して学び、統計学や臨床開発に関するセミナーにも積極的に参加しています。最近では、大学の教授が主催する1年間のプログラムにも参加し、改めて統計の理論を体系的に学び直しました。新しい知識を吸収することで視野が広がり、日々の業務にも新しい発見があることが、この仕事の面白さだと感じています。

ーー さまざまな知識を吸収し学び続けることは容易ではないと思います。そのような努力を続けられている現在の仕事において、やりがいを感じるのはどんな瞬間ですか

やはり、新しいことを知り、自分の成長につながっていると感じる時にやりがいを感じます。臨床試験の統計解析では毎回異なる課題や考え方に出会うため、そのたびに新しい発見があります。例えば、過去の事例を調べたり、先輩に相談したりしながら自分なりの方法を見つけたとき、「また一つできることが増えた」と感じられるのが嬉しいです。

また、臨床試験が計画通り進み、チームとして成果を出せたときにも大きな達成感があります。医薬品開発は5年から10年という長いスパンで行われる仕事ですが、一歩ずつ新しい知識を積み重ねていく過程そのものが、この仕事の魅力だと感じています。

ーー これまでの勉強や社会人としてのご経験から、ご自身の強みはどこにあると感じていらっしゃいますか

新しいことを学び続けられるところが強みだと思います。未知の分野に入っても臆せず取り組み、少しずつ理解を深めていくのが得意です。上司からも「統計解析の分野に初めて挑戦しながらも、自分で学び、確実に成長してきた」と評価してもらっています。

また、挑戦を楽しめる前向きな姿勢と、プレッシャーに左右されにくいメンタルの強さも、自分の学びを支えていると思います。環境が変わっても柔軟に吸収し、自分の成長につなげていけることが、今の仕事でも生かされていると感じます。

薬学という選択肢 ー 進路選択のヒント

ーー 最後に、これから進路を考える学生たちに向けて、薬学という分野の魅力や実際の学習内容について、メッセージをいただけますか

薬学というと薬の効能を勉強するイメージがあるかもしれませんが、実際には人体の仕組みや化学的な内容が中心です。薬に直接興味がなくても、生物や化学に興味がある人にも向いている分野だと思います。もちろん、薬そのものに興味がある人にとっても、薬学は非常に魅力的な学問です。薬がどのように体の中で働くのか、どのようにして副作用を抑え、効果を最大化しているのかを科学的に理解できる点が大きな特徴です。将来的に医薬品開発や創薬研究に携わりたい人にとっては、その基礎をしっかりと学べる場でもあります。

また、薬学には大きく分けて薬学科(6年制で薬剤師資格を取得)と薬科学科(4年制で資格を取得しない)があり、自分の興味に合わせて選ぶことができます。幅広い知識を学びながら、自分の「好き」や「関心」が社会の役に立つ形でつながっていくーー薬学は、そんな学びの可能性を秘めた分野です。


※内容や肩書は2025年11月の記事公開当時のものです。

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